姜 泰 煥 (alto saxphone) カンテーファン
1944年7月15日に生まれた姜泰煥は,小学生の頃からクラリネットを吹き始めやがてアルト・サックスを演奏するようになった.音楽学校で学びながら,次第にジャズ演奏にひかれていった.若い頃から,彼の才能は周囲の注目の的だった.早くから自分のグループを結成し当時の韓国では最も年少のジャズ・バンド・リーダーであった.そして,彼は常に前向きに新しいものを追求する.1978年頃,彼はフリージャズのトリオを結成し空間舎廊などで実験的な即興演奏を展開し出した.これが,今日に至るまで韓国で唯一のフリージャズ・クループである姜泰煥トリオの発足であった.韓国では,ジャズは,欧米や日本ほど一般 的な音楽ではなかった.そうした情況の中から,姜泰煥のような傑出したミュージシャンが出現したことは,驚くべきことである. 現在の姜泰煥が演奏しているのは,フリージャズと云うより,ジャズを超えたジャズとしての即興音楽フリー・ミュージックである.この道に関しては,格別 の師もなく,海外情報も乏しい中で,彼は自分独りで,世界の最先端のサックス奏法を習得してきた.例えば,循環呼吸を使って全く音の切れ目なく10分間サックスを吹き続けても,呼吸1つ乱れないし,一本の楽器から倍音を巧みに使用して同時に二つの音を出すハモニックスを演奏することもある.自分で手造りした特殊なReedを用いて音色を変えることもある.それらは,姜泰煥の創造意欲の結果 によるものである.世界一流の技法なのだ. だが,こうした技法より更に素晴らしいのは,彼の音楽が深い哲学と,豊かな感性に裏付けられていることである.彼は,韓国の伝統的スケール(音階)に基づく独特の即興音楽を展開する.朗々とうねるようなイントロダクションから,やがてタンギンクを多用した激しくスピード感溢れるインプロヴィゼィションに移行していく.しかも,それは胸を締めつけるような〈情〉を伝えてくる. 姜泰煥は,ジャズという音楽形式に,古くから伝わる韓国の心を注ぎ入れて彼のフリー・ミュージックを創造している.リズムはおおらかに抽象的で音色は鋭さに満ちている知的創造.だから,彼の音楽は聴く者の心に滲み入ると共に,緑の樹々をそよがせ,青空の彼方にまで広がって行くように思われる.これは韓国の,そしてアジアの音楽なのである.