ミシャ・メンゲルベルク Misha Mengelberg(p)
1935年生まれ.64年トリオを率いて,エリック・ドルフィーの『ラスト・デイト』でデビュー,66年からハン・ベニンクとICP(Instant
Composers Pool) を主宰する.セロニアス・モンクのスタイルをはじめ,様々な引用でコラージュされる独特なピアノ・スタイルを持っている.
インタープレイの音楽であるジャズは,ひたすら自由を目差して精神が開かれることを願っての行為であったが,それに対して,ミシャの音楽は,『自由なんだ』という地点からスタートする演奏,まさに開かれた精神の中にいての行為であるように思われる.
前者の 《 論理的 ,時間的 , 意味 ,秩序 ,生真面目 》という特徴に比べ,
《 直観的 ,空間的 ,無意味 ,猥雑 ,ユーモア 》を性質としている. ミシャの演奏するラグタイム・スイング・民謡etcは,全く折衷的であり,音楽の歴史すべてから即興演奏のヴォキャブラリ−を組み立てている.
「私が興味をもっているインプロビゼーションは,だれもが日常生活でやっている種類のことなのだ.ドアまで行くのに6歩で行くか7歩で行くか,頭をかくのに指1本でやるか2本でやるか,これらのことはだれでも即興でやっている.私たちはお手洗いに行ったかとおもうと,次には,あるいは同時にすら,深遠な哲学的思考を行いもする.」というミシャの言葉が,彼の演奏が聴衆にプレゼントしてくれる世界の,力強さ,たくましさ,笑いを支えている.